私は天使なんかじゃない






VSストレンジャー








  西海岸のストレンジャー。
  東海岸のトンネルスネーク。

  さあ、最強を決める戦いを始めようか。





  グレイディッチ地下。
  マリゴールド駅の構内。
  廃棄された無数の車両が発車の時をを永遠に待ち続けている。
  ここにも蟻たちが溢れていた。
  「そこっ!」
  9oを連射。
  蟻たちは確実にマリゴールド駅の奥から這い出して来ているようだ。
  実際、俺たちが構内に飛び込んでからその数は増すばかりだ。
  「ふぅ」
  撃破完了。
  空になったマガジンと実弾入りのマガジンを入れ替える。
  くそ。
  結構な数がいるんだな。
  これがレイダーとかなら弾丸やら武器の補充が出来るってもんだが相手は蟻だからな、実入りとしては何にもない。
  もっとも……。
  「蟻肉か、売ればそれなりにはなるわね、結構な数があるし」
  「そうだなぁ。美味くはないが収益性はあるな」
  レディ・スコルピオンとメカニストは別の観点から蟻を見ている模様。
  蟻肉?
  えっ、これって食えるの?
  「美味いのか?」
  「美味しくはないわね。ネクター……あー、ジュース状にしたらそれなりには飲めるのかしら。まあ、一度だけ飲んでみたけど、ドロドロ過ぎてあたしはノーサンキュー。あのグールの店
  にはなかったでしょ、まあ、多少上品な店では出ない食材。ボス、一口齧ってみる?」
  「……やめとく」
  「賢明ね」
  ウェイストランド人っていうのは逞しいんだなー(棒)。
  俺は耐えられそうもない。
  おおぅ。
  「先に進もうぜ」
  敵もいないし。
  少なくとも今のところ蟻は見えない、あくまで今のところ、だが。
  だがそれはあくまで雑魚だ。
  奥にはストレンジャーが控えている。
  そいつらが本番だ。
  「ブッチ君、少し待ってくれ」
  「どうしたメカニスト」
  「闇雲に進んでも蟻たちの障害に阻まれるだけだ。PIPBOYで最短距離が分からないものか?」
  「うーん」
  どうだろうな。
  俺はミスティのように使いこなしてるわけじゃないしなぁ。
  多分機能的にはできるんだろうけど、うーん。

  「ブッチ・デロリア? 何故ここに? ああ、私をさらいに来たのか? いつでもウェルカムだぞ、略奪婚は」

  「はっ?」
  声がした。
  聞き覚えのある声。
  照明に消えた構内に目を凝らす。
  そこにいたのは……。





  同刻。
  グレイディッチ地下。ボルト至上主義者側に与えられている区画、その一室。
  ボルトセキュリティたちが侵入者たちを迎え撃つ準備をしている。
  ボルトの裏切者ブッチ・デロリアもここに攻め込んできていると知りボルト至上主義者を率いるアラン・マックはエキサイトしていた。
  そんな様を冷めた目で見る者たち。
  ジェリコとクローバー。
  この2人は、この騒動の傍観者。
  煽る形で介入はしているものの、傍観するだけの余裕がある。
  「どこまで付き合うつもり?」
  「次のステージまではまだ時間があるからな、しばらくは付き合うさ。……アラン・マックっ!」
  監督官の地位を狙う男を呼び掛ける。
  アラン・マック。
  殉職したボルトセキュリティのオフィサー・マックの父親。
  「何だ、ジェリコ」
  「勇猛果敢のボルトセキュリティには敬服するが……」
  そこまで言って声を落とす。
  聞き取る為にアランは側まで来るとジェリコは囁いた。
  「別に最後まで戦う必要はないんじゃないのか? あんたの目的は水だろ、それを手に入れてボルトに帰る、そのはずだ。最後までやり合うつもりなのかい?」
  「ふむ」
  ボルトの平穏を乱したミスティを消す。
  その為に出て来た。
  ブッチは、あくまでついでだ。
  息子を殺したのはミスティだしボルト至上主義者たちにとってミスティは忌むべき悪魔、だからこそ殺しに来た。しかしアランにとってはあくまで目的の一つにすぎない。
  全面核戦争から200年。
  隔離されていたボルト101の設備は既に限界まで来ている。
  原子炉も浄水チップもギリギリの状態で、水に関して言えば浄水が間に合わなくなっている。
  だから。
  だから外に来た。
  アランは外で浄水された水を大量に持ち帰り、ボルトでの発言権を増そうとしていた。それだけでなくアマタを追い落とす算段も出来ている。
  そういう意味では最後まで、全滅するまで戦うつもりはなかった。
  部下が全滅しようとも少なくとも自分の命だけは温存するつもりだ。
  「ジェリコ」
  「何だ?」
  「水の確保は確かなんだろうな?」
  「充分な数をキープしてある。ちゃんと隠してあるよ。ゴーサインが出たら、人手を募ってボルトまで運んでやるよ」
  「……よし」
  「どうするんだい?」
  「ボルトに凱旋するよ、ある程度トライした後でな」
  「分かった。護衛しよう、俺たちで」





  ライオット装備という独特の防具を身に包んだ連中に案内されて俺たちは進む。
  彼ら彼女らは地下の支配者。
  メトロの住人。
  全ての地下鉄を網羅している。
  最短距離で敵の中枢に攻撃するべく案内を頼んだらオッケーしてくれた。
  頼りになるぜ。
  「思わぬところで会った。運命的な感じだな」
  「そうか?」
  マックス?マキシー?と再会。
  俺たちはマリゴールド駅内を案内してもらう。先導しているのはマックス……いや、マキシーで統一しよう、ややこしい……マキシーが先導し、俺たちが続き、その後ろを名前も知らない
  メトロの兵士2人が続く。聞かなかったわけじゃない、むしろ聞いたしこちらも名乗ったが無反応。どうやらマキシーが特殊な性格で、無言がメトロの普通のようだ。
  無言が普通というか外の人間と関わらないのが普通、なのかな。
  「……」
  じーっとマキシーの後頭部に穴が開くんじゃないかってほどレディ・スコルピオンが睨んでいる。
  何故に?
  「お前何睨んでるんだ?」
  「NCR、ってわけじゃなさそうだけど……あんたら何者?」
  俺が答える。
  「メトロの連中だよ」
  「メトロ」
  「敵じゃない、それは確かだぜ」
  「……分かったわよ、ボスが言うんだ、納得しよう」
  「そいつはよかった」

  バリバリバリ。

  後続2人が振り返って銃撃。
  蟻を蹴散らす。
  どこからでも出てくるから困りものだ。
  外と違って閉鎖空間だから炎攻撃は面倒だしな。避けようがない。まあ、接近される前に撃破するから問題ないんだが……暗いからな、下手したら接近を許しかねない。
  面倒だぜ。
  「それにしてもマキシー、この辺りにお前らの故郷があるのか?」
  「何だ、結婚して住む場所が気になるのか? 安心しろ、子育てには適している。お前は安心して私を妊娠させまくれ」
  「……お前すげぇこと言うのな」
  「ははは♪」
  「……爽やかな笑い方するとこじゃねぇだろ。というかお前女なのか?」
  「さあ?」
  「……」
  今まで周りにいなかったタイプだな。
  まあ、レアな性格だとは思う。
  「この道で合っているのかい?」
  メカニストが心配そうに尋ねた。
  マキシーは答える。
  「地下は網羅している、問題ない。妙な科学者がいる場所は分かっている。そいつと……ストレンジャー?とかいう奴らがつるんでいるかは知らないが、その科学者が妙なアリを野放しにし
  ているのは確かだ。我々の居住区までその蟻が侵入しだしたから文句言いに来たら、ブッチたちと会ったというわけだ」
  「その科学者っていうのは?」
  「さあな、そこまで把握しているわけじゃない。蟻を量産して放置している嫌な奴だ」
  「分かり易いな」
  「だろう?」
  マキシーは止まる。
  その先には壁。
  ただし壁の一部が崩壊していて中に入れるようだ。
  「最短ルートだ、ここから先に行けば科学者の実験区域。悪いけど我々はここでお終いだ、あくまで蟻が来なくなればそれでいい。共闘してまで何とかしようとは思ってない」
  「構わないぜ、俺たちだけでぶっとばしてくるからよ」
  「……」
  「何だよ?」
  「お前はやっぱり面白いな。普通は薄情もの、とか言うはずだが」
  「そうか? まあ、いいじゃねぇか」
  「幸運を祈る。ブッチ・デロリア」
  「ああ。またな、マキシー」
  ここでメトロ組とは別れる。
  マジで助かったぜ。
  
延々と構内を彷徨うのは正直勘弁だった。敵がいないのであれば、まあ、それでもいいが……いや、やっぱそれでもよくないな。
  時間のロスが省けた。
  俺たちは進む。
  避けた壁を通り抜け、しばらく進むと普通の通路に出る。
  ここからどう行けば終点かは分からないが案内をあそこで終了させたということは敵のテリトリー内に入っているのだろう。
  科学者は全く関係ない奴?
  いやぁ。
  いくらなんでも、偶然の一致では片付けられないだろうよ。
  何らかの形で関わっているはず。
  ストレンジャーとな。
  そしてストレンジャーとつるんでいるボルト至上主義者たちもここにいるはず。
  蹴散らしてやる。
  まとめてな。
  通路を進む。特に敵はいないような。
  一本道の通路だったがしばらく進むとプラットフォームに出た。広い。待ち伏せには最適……。

  ドドドドドドドドドドドドドドドドっ!

  銃撃音……というか重撃音と表現した方がいいのかもしれん。
  大量の弾丸が降り注ぐ。
  どこだ?
  どこからだ?
  俺たちは放置されている資材や倒壊した自販機の陰に隠れて様子を見る。
  ……。
  ……いた。
  廃棄された列車の上だ。
  女がいる。
  何だあの武器、キャピタルでは見ない武器だ。アサルトライフル……ではなさそそうだな。
  「あれアサルトライフルじゃないよな? めちゃデカいけど」
  「ブッチ君、あれは軽機関砲だ。あの女性はそれを二丁持ってる。どんな腕力だ」
  「ライトマシンガンっていうやつね、西海岸の銃。あいつは知ってる、ガンナー、ストレンジャーの女。能力者で、腕力以上の物が持てる。腕力が強くなるわけじゃないからパンチが重いってわけじゃない」
  能力者か。
  厄介だ。
  時間がスローとか射線が見えるとか虫が操れるとかも面倒だが、あんな馬鹿でかい銃を二丁持てるというのも地味に厄介だ。
  「ここはあたしが受け持つ。ボス、先に行って」
  「分かったぜ」
  と、そこまではよかったんだが……レディ・スコルピオンに任せて先に進んでいる間に蟻は襲撃してくるわボルトセキュリティに出くわすわで、いつの間にかメカニストと分散されてしまった。
  くそ。
  メカニストはどこだよ。
  「ん?」
  通路を彷徨っていると横たわっている何かが目に飛び込んできた。
  9oピストルを構えながら俺は進む。
  ここは敵地だ。
  不意打ちは来るものだと思っていた方がいい。
  「死体」
  転がっていたのは死体。
  丸焦げだ。
  近くにアサルトライフルが転がっていた、ベンジーが使っていたのと形状が違う。モイラの店で見たことがある、これは中華製アサルトライフルだ。中国製ピストルはモーゼル銃とかいう
  やつの劣化版だが、中華製アサルトライフルは普通のアサルトライフルよりも強力だと聞いた。死体に自由は必要ない。拾う。
  ふぅん、まだ使える。
  弾倉も2つ落ちている。頂くとしよう。
  この死体が誰かは知らないが、もしかしたらレディ・スコルピオンが言ってた元エンクレイブなのかもな。
  もちろんあくまで憶測だが。

  カタ。

  「ちっ!」
  物音がしたと同時に俺はその場を転げる。
  炎が通り過ぎる。
  転がりながら中華製アサルトライフルを火が吹いてきた方に向けた。
  蟻、ではない。
  溶接用マスクをして火炎放射器を抱えた男だ。
  トーチャーっ!
  「丸焼きにしてやるぜブッチ・デロリア、ここでてめぇを殺してボマーに自慢しようって寸法よっ!」
  「いきなり出てきて訳分かんねぇ発言するなってんだっ!」

  バリバリバリ。

  中華製アサルトライフルを掃射。トーチャーは慌てて逃げていく。
  距離はこちらの方が有利だ。
  俺は遠距離、奴は中距離、火炎放射器は閉鎖空間で効力を増すが距離を保てている以上はそんなに怖くない。
  くそ。
  逃げられた。
  この黒焦げ死体は蟻じゃなくて奴にやられたのかもな。
  誰だか知らないが仇は取ってやるぜ。
  「逃げやがった」
  まったく。
  あれでもストレンジャーかよ。
  だけどこれで完全にここがストレンジャーの本拠地だってことが分かったぜ。
  そして……。

  「ブッチ・デロリアがいるぞ、殺せ、ボルトの平穏を乱した悪魔を殺せっ!」

  そして、ボルト至上主義者たちの巣窟ということも分かった。
  セキュリティの1人が叫ぶ。
  誰だかは知らん。
  わらわらとセキュリティ部隊が姿を現し始めた。
  あー、もう、分かったよ。
  決着付けてやる。
  「トンネルスネーク始まるぜ、始まるんだぜぇーっ!」





  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  絶叫。
  それと同時に空気が震え、そして破壊的な力が生まれる。
  それこそがバンシーの力。
  破壊音。
  バンシーに捕捉されたメカニストは吹き飛ばされる。
  「ぐぅっ!」
  「誰だか知らないけど私に見つかるなんて不幸ね」
  バンシー。
  ストレンジャー初期からいる不動の3人の1人。
  ボマーの腹心。
  メカニストは素早く立ち上がりレーザーピストルを撃つ。ロボットのコスチュームを着ているのでダメージは少ない。
  レーザーはバンシーの頭に当たる。
  効果?
  何もない。
  何も。
  当たったはずのレーザーはバンシーの皮膚すら傷つけていない。
  「人じゃないのか?」
  「そんな攻撃効かないわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「……っ!」
  再び吹き飛ばされる。
  レーザーは当たった、当たったはずなのに、無傷。
  メカニストは立ち上がると同時に背を向けて走り去った。バンシーはそれを追う。
  「逃がすと思う?」






  「攻撃続行っ!」
  グレイディッチ。地上。
  警戒ロボットの武装はミサイルだけで、弾数は尽きた。実質的な攻撃能力はその警戒ロボに乗ったマシーナリーのアサルトライフルのみ。
  だがその機動性、防御力にベンジャミン・モントゴメリー軍曹は攻めあぐねいていた。
  従来のものとは段違いだ。
  カチ。
  「安物めっ!」
  整備不良なのか、弾詰まりなのか、軍曹がカンタベリー・コモンズで買った安物のアサルトライフルは弾丸を吐き出さなくなる。
  放り捨てて10oピストルを引き抜いた。
  「どうしたパターソンの手下よ、その程度かっ!」
  「中国野郎が調子に乗りやがってっ!」
  ぱぁん。
  ぱぁん。
  ぱぁん。
  単発銃を撃つ。
  正確に。
  警戒ロボットに当たってはいるのだが装甲が弾丸を弾き返す。10oピストルで警戒ロボットの装甲は最初から貫通できないがまったくノーダメージというのはおかしい。
  何らかの手が加えられているようだ。
  「オートマタは俺の最高傑作だ、そんなもので落とせるものかっ!」
  「言ってろっ! 万里の長城の向こうまで吹っ飛ばしてやるっ!」





  グレイディッチ。地下。
  アンタゴナイザーが押し込められている備品室。
  「よお、蟻の女王様」
  「……気持ち悪い。ラッド・ローチを体に這わせて何のつもり?」
  「俺はローチキング。イカした名前だろ?」
  「釈放してくれるわけ?」
  「ボマーから許可が出たんだ」
  「何の?」
  「お前は今日から俺の女だ。ハイブリッドな能力者のベイビーを作ろうぜ。ひひひっ!」





  同刻。同じく地下。
  Dr.レスコの研究室付近の通路。
  「……」
  物言わずに槍を構える初老の男性がいる。
  ランサー。
  ストレンジャー不動の3人の1人。
  槍の使い手で、リージョンの攻撃に最後の最後まで抵抗していた部族の族長。
  「……」
  「これはこれはランサーさんかよ、わざわざ待ち構えてくれるとは痛み入るぜ」
  「お前さんがトロイか」
  「左様でございますよ」
  刀はまだ鞘の中。
  スタスタとトロイは進み、一定の距離で止まった。3メートルの距離。槍の間合いであり、そしてトロイにとっての間合いでもある。
  トロイは腰を低く沈め、鞘に右手を当てる。
  鞘は掴まない。
  手を当てているだけ。
  ランサーも槍を構えた。
  「あんたは武人だろ、今じゃ果たすつもりもない復讐を逃げ道にしている雑魚だが……」
  「何のことだ? 果たすつもりがないだと?」
  「ないだろ。ストレンジャーとつるんで遊んでるだけだ、復讐したいなら傭兵やる意味ないしな」
  「……小僧……」
  「ともかくだ、武人のお前に敬意を表して能力を使わないで沈めてやるよ」